第12曲 ポーランド風

 この曲は、カロリーネ・ツー・ザイン=ヴィトゲンシュタイン伯爵夫人の肖像画です。

 カロリーネは1819年2月7日、ポーランドの貴族の家柄に生まれました。幼い頃から多くの書物を読み、しっかりとした考えを持っている女性でした。
 1836年17歳のカロリーネは父親の勧めで、当時ロシアのウクライナ地方に赴任していたニコラウス・ヴィトゲンシュタイン伯爵と結婚しますが、教養深く、音楽にも関心の深いカロリーネとそうした知性や趣味を持ち合わせないニコラウスとの結婚生活は上手くいかず、夫婦は結婚後1年で別居、カロリーネは相続した南西部のウクライナの所領で文学や哲学を研究する生活を送っていました。

 カロリーネは1847年、キエフのチャリティーコンサートでリストと出会い、リストの音楽的才能に感激したカロリーネは人脈的にも経済的にも支援を惜しまない事を約束、2人は親密な関係になっていきます。
 翌年、カロリーネは1人娘マリーを連れてロシアを出国し、マリー・ダグー伯爵夫人との関係を採算したばかりのリストのもとにむかいます。リスト37歳、カロリーネ29歳の時です。

カロリーネと1人娘のマリー 1840年頃
マリーはリストのもとで育てられました。

 その後13年間の同居生活の間、カロリーネはリストをあらゆる面で支援し、リストの数多くの作曲にインスピレーションを与え、新たな生き方への方向性を示すなどして支え続けました。
 2人の周りには、リヒャルト・ワーグナーやエクトル・ベルリオーズをはじめ、多くの芸術家たちが親しく交流しました。

 リストとカロリーネは正式に結婚する事を望み、結婚のための宗教上、相続上の障害を精算して、リスト50歳の誕生日に婚礼を挙げようとしますが、最後の最後になって、ザイン=ヴィトゲンシュタット伯爵家が異議を申し立てたため、結婚話は消えてしまいました。
 最終的には結構するというリストとカロリーネの戦いは、クララとロベルトシューマンの1年にわたる戦いを思い出させます。
 結婚計画の挫折によって、2人の中は急速に冷えていき、1865年リストは聖職者となり、カロリーネはローマの邸宅で、進学的な研究や宗教的な鍛錬に余生を捧げました。

晩年のカロリーネ 1876年
当時Japonism(19世紀後半にヨーロッパで流行した日本趣味)
が流行ったので、うちわを持ち、花瓶を飾っています。
リストとは1886年に死別するまで、手紙のやりとりはありました。

 1853年、リストが作曲した交響詩第7番「祭典の響き」は、1854年ワイマールでシラーの戯曲「芸術への忠誠」が上映された時に、序曲として初演されました。この曲は、当時同棲していたカロリーネと近く結婚することを想定し、そのための祝典序曲として書かれたとも言われています。
 ティンパニに導かれて出る行進曲風の主題に始まり、いくつかの主題をもとに組み立てられていて、祝典的で輝かしく、喜ばしい気分で進められていきます。この曲の途中の経過句には4つの形があり、指揮者は自由に選択することができます。
 その中にはハンガリーのチャールダーシュとポーランドのお祝いのポロネーズ、2つの民族舞踏が聞こえます。ポロネーズのリズムにのせて、第12番にも現れるカロリーネの性格を表すようなリズミカルなメロディーも聞こえます。

 組曲「クリスマスツリー」の終曲である「ポーランド風」は、「祭典の響き」のような祝典的で輝かしい音楽ではありません。「祭典の響き」では2人の結婚はハッピーエンドを迎えますが、「ポーランド風」ではそうはいっていません。そのため、いろいろな展開が現れます。

 第11番の下降線である終わりが、第12番の冒頭のメロディーを呼び出したように続いていきます。

2人はフランス語で会話しました。Caroline はフランス語でカロリーン
Prin-cesse Ca-ro-line プラーン – セッス カーローリン(カロリーネ伯爵夫人)

2回も呼びます!メロディー、リズムにぴったりです。

 次のパートでは、次のお祝いのマズルカの一部でもある、なんとなく頑固なリズミカルなメロディーを紹介し、プリンセス・カロリーネの難しい個性を描きます。

 続いてマズルカは階段を登るように盛り上がっていきますが、まさにクライマックスではマズルカはついに壊滅的なクライマックスに至り、1861年の妨害された結婚を思い出させます。

 フェルマータの後、また冒頭の美しいメロディー またカロリーネを呼びます。
Prin-cesse Ca-ro-line プラーン – セッス カーローリン

 その後、美しい神秘的なテーマがあらわれます。
リストが神父さんになり、カロリーネが教会をテーマにした論文を書く。

 最後にマズルカのテーマはイ長調から変ロ長調に上がり、天国につながります。
From Earthly Love Heavenly Lovve 地上の愛から天国の愛へ
そういう意味で2人はハッピーエンドを迎えます。

そして12曲の組曲のフィナーレ、孫娘へのクリスマスプレゼントにふさわしく、晴れやかに盛り上がり、華やかに終止します。

それでは、第12曲「ポーランド風」聴いてみてください。

 2021年10月31日 三和レコーディングスタジオ録音

 Primo:四方萌香
Secondo:リヒャルト・フランク

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